【展覧会情報】『ルート・ブリュック 蝶の軌跡』 その1【陶板技法の謎】
こんにちは。
ceramicsstarです。
北欧の地フィンランドにはアラビア社という陶磁器で有名な会社があります。
プロダクト製品としても数ある名品を世に発信しています。
創業当時からの『ものづくり』の原点とも言えるクラフトマンシップの精神による姿勢をとても大切にしている会社です。
このアラビア社は、製品を提供していく一方、陶芸作家が自由に制作できる環境や仕事の依頼も積極的に行い、CERMICS ARTの世界を世に広げました。
1950年代には先回ご紹介したカイ・フランク、ウラ・プロコぺやライヤ・ウォシッキネンなど優秀なデザイナーを採用し、北欧陶器の黄金期を確立しました。
フィンランドを代表する芸術家、ルート・ブリュックもアラビア社が採用したデザイナーの一人で、長年にわたりこの名窯の専属アーティストとして活躍しました。
2019年に開催された東京ステーションギャラリーの『ルート・ブリュック展』に足を運び、その技法について考えてさせられました。
今回は『ルート・ブリュック展』にて展示されていた陶板作品にフォーカスしてご紹介します。
2020年5月現在は岐阜現代陶芸美術館にて巡回中です。(コロナウイルス のため休館中)
**写真は展覧会で個人的に撮影が可能だったものに限り投稿しました。**
『ライオンに化けたロバ』の釉薬など
『ライオンに化けたロバ』1957年
この写真の作品は展覧会ポスターにも使用されています。
ロバのかたちは石膏型に泥漿(でいしょう)を流し込んで作る『鋳込み成形』で制作されています。
表面の部分の丸やレリーフ状の絵柄に焼成後に透明な青、緑、ピンクと言った色に変わる釉薬を散りばめています。
拡大するとタイルの様になっていますが、釉薬を丹念に塗っているのではと思います。
盛り上がった部分はモザイクタイルの様に艶やかな仕上がりに。
ルート・ブリュックは父親が蝶の研究者だったことから『蝶』をモチーフにした陶板に強い想いがあり多くの作品を残していますが、それ以外にも『鳥』『魚』『人』と言ったものも制作しています。
とてもユーモラスで彼女の人柄が感じられます。
『鳥とリンゴ』1954年
『鳥とリンゴ』の拡大部分
ルート・ブリュックの『陶板』の技法
『鳥とリンゴ』を拡大してよく見ると透明の色ガラスの層は随分と厚く、また透明部分は陶器の世界で言う表面にヒビが入った『貫入』のような表現になっています。
色の境界は凸状になっていますから、凹んだ平たい部分に透明な色ガラスのように焼きあがる釉薬を流し込んでいる訳です。
この技法についてはイギリスのミントン社の『マジョリカタイル』と類似した技法です。
『草むらの鳥』1956年
この黒い墨のような色はどのように出すのでしょう。
版画のエッチングのような技法に見えます。
これは酸化金属を直接素地に刷り込んで、表面に引っ掻き傷による溝が黒く残る加飾で表現されているそうです。そして、その上に釉薬が施されています。
これらは銅版画の技法とマジョリカタイルの製作技法を合わせたようなものではないかと思いました。
イギリスのミントン社『マジョリカタイル』の製法
ルート・ブリックの銅板画の技法と共通点を感じたマジョルカタイルの技法。
たとえばミントンのマジョリカタイルは、プレスにより素地の表面に凹凸を付けて釉薬を上から掛けて、その釉薬の厚みにより立体的に表現したり、文様を浮き出させたりしています。
色を分けるときは凸の線を境界に釉薬を差し分けます。
『ミントンのタイルの秘密』より引用
企画:ロイヤルドルトン ジャパン株式会社
構成・編集・デザイン:株式会社キュレーターズ
単彩のマジョリカタイル(参考画像)
多彩のマジョリカタイル(参考画像)
ルート・ブリュックの『陶板』の技法をまとめると
①銅版画の技法:黒い引っ掻き傷は線の溝に酸化鉄を刷り込み奥行きや表情を出す。
②タイルの技法:19世紀から20世紀にイギリス作られた『マジョリカタイル』と、技法をベースに厚みのある透明な釉薬層を作り、光沢感や美しさや深みを出す。
『魚の皿』1953-1954年
『魚の皿』の拡大部分
『ストーブ』1950年
今回はここまで、次回へと続きます。
下記サイトでオリジナル商品を販売しています。
よろしくお願いいたします。
minne.com
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